「源ちゃんのゲンダイ国語(NHKラジオ第一スッピン)」から「ある特別な朝」

高橋源一郎さんの略歴

高橋源一郎:1951年広島県生まれ 作家、明治学院大学元教授、横浜国立大中退、81年「さようなら、ギャングたち」で群像新人長編小説賞秀作、2012年「さようならクリストファー・ロビン」で谷崎潤一郎賞、文芸誌「新潮」で昭和天皇とその時代を描く小説「ヒロヒト」を連鎖中

2019.12.27 今年最後の「スッピン」です

源一郎さんのオープニングは「朝」で始まった。最近、「朝」についての記憶が全くない。美しいなと思う「朝」は小さい頃や若い頃に集中している。子供の頃の運動会の「朝」、夏休みの最初の日の「朝」はセミが鳴いてきれいだった。高校生の時友達の家に泊まって「朝になってしまった。」と、思った時、風の冷たさを素直な心で感じられた。あの頃は人生の「朝」にいたのか。体に合っていた。最近は、人生の夜で夜の記憶はある。今日は今年最後の12月27日金曜日の「朝」。若い頃より早起きなのに「朝」を感じないことが身にしみる。

「テーマ ある特別な朝 朝、目覚めると戦争が始まっていました」

今日のテーマと本のタイトルは同じ。「朝、目覚めると戦争が始まっていました」著者:武田 砂鉄、方丈社編集部。これは凄い企画だと思った。

昭和16年12月8日午前7時の臨時ニュースでアメリカ、イギリスとの先の大戦の始まりが知らされた。当日の知識人、著名人の日記や回想録を集めた。その時、当時の人々はその瞬間に何を思ったのか。どんな印象に残ったのか。どう考えていたのか。戦争の体験のない現在の人々に伝える一冊。

54人の文章が残っている。その日一日に絞っている。あの戦争は長かったから、いろいろ書かれている。青天の霹靂であった。今日、ぼくたちは結果を知っているが、結果を知らない人のその時の思いを知ることの大切さ。自分の身に降りかかった時の臨場感がある。始まった時と終った時の彼らの感じ方は勿論違う。現在、何があるかわからない世の中だから、なおさらだ。

ボクサー ピストンもり口 27歳:やったー、感動した。今日から新しい日本が始まると。バンザイと駆け出したい思い。みんな、思っていたのではないか。児童文学作家 新美南吉 28歳:いよいよ始まったと思った。なぜか体ががくがく震える。

昭和16年12月8日昼のニュース 東条英機の演説。これで、国民の中に戦闘状態になったとわかる。折口信夫 54歳:せめてもう10年若かったら、自分も兵隊に行けたのに。それから時間が経ち考えが変わっていった。ジャーナリスト 徳富蘇峰78歳:凄く興奮している。思想家 鶴見俊介 19歳:ハーバード大学に留学していた。友人は戦争が始まってもその時点では友人として認めてくれていた。芸術家 岡本太郎 30歳:パリにいた。まさか、と愕然とした。入隊は決定していた。振り向いた青空は限りなく青い。

当時、少なからず外交官やジャーナリスト、社会運動家は疑問を持っていたが、思ってはいても口には出せない時代だった。その時代の教育の深さを感じてしまう。著名人たちが若い時には戦争を賛美していたなんて思いもよらない。